大きなプロペラを頭に載せた、「チヌたん」。航空自衛隊などで活躍する輸送ヘリコプター「CH-47 チヌーク」をモチーフにした人気キャラクターです。
生みの親は、イラストレーターの今井ミリ先生。
今井先生は、海上自衛隊東京音楽隊や自衛隊岡山地方協力本部など、自衛隊に関わるさまざまなデザインも手がけてきました。

しかし2026年6月7日、今井先生は膵臓がんのため亡くなりました。
多くの人に愛されるキャラクターを生み出し、これからも新しい作品が生まれていく――。そう思われていた中での、突然の別れでした。
その約2カ月後、横須賀・ドブ板通りにある「艦マニア横須賀」で開かれた「今井ミリ先生を偲ぶ会」には、先生が残した作品とともに、多くの思い出が集まりました。
愛らしいキャラクターに込めた思い、そして、ともに歩んだ人たちが語る素顔――。
今井ミリ先生が残した、優しい世界に皆が包まれました。
「いつか一緒に」ー菊池雅之さんが作った追悼カレンダー

「もっと密に連絡を取っておけばよかったです。でも、『いつかやれる』って、やっぱり思っていましたから……」
そう話すのは、軍事フォトジャーナリストの菊池雅之さんです。
菊池さんと今井ミリ先生は、約10年来の付き合いでした。
そんな二人が温めていたのが、菊池さんの写真と今井先生のイラストを組み合わせた、某雑誌でのコラボ企画です。
同じ艦艇やブルーインパルスを題材にしても、二人の表現は対照的でした。
菊池さんは、その迫力や緊張感を実写で切り取る。一方、今井先生が描けば、同じ自衛隊の世界が、ふんわりと愛らしいイラストになります。
迫力ある「リアル」と、やさしい「ふんわり」。
表現は違っても、二人が見つめていたのは同じ自衛隊の世界でした。
だからこそ、この二つを組み合わせたら、きっと面白いものになる――。
企画は動き始めていましたが、お互いに忙しく、実現には至りませんでした。
それでも菊池さんは、「いつかやれる」と思っていました。
しかし、その「いつか」を二人で迎えることはできませんでした。
それでも、二人でやりたかったことを、このまま終わらせたくない。

菊池さんの手元には、今井先生から預かっていたイラストがありました。
二人で思い描いていたものを、今度こそ形にしたい――。
「やりたいことが決まってたんで」
菊池さんはすぐに制作に取りかかり、自ら撮影してきた写真と今井先生のイラストを組み合わせ、わずか1カ月足らずでカレンダーを完成させました。
ページをめくると、表には今井先生が描いた、ふんわりと愛らしいキャラクターたち。その裏には、菊池さんが捉えた迫力ある世界が広がります。
やさしいイラストと、迫力ある写真。
二人が「いつか」と思い描いていたコラボレーションが、カレンダーの表と裏で、ひとつの作品になりました。

29日、30日の2日間、会場に立った菊池さんは、カレンダーを手にした一人ひとりにサインを入れ、自ら手渡していました。
今回は初めて、持ち運びもしやすい卓上サイズで制作されました。
「会社のデスクとか、ご自宅のちょっとしたところに置いてもらえれば」
偲ぶ会が終わったあとも、それぞれの日常のすぐそばに置いてもらえるように。
今井先生のイラストと、菊池さんの写真。そして、一冊ずつ添えられた菊池さんのサイン。
手にした一冊から伝わってくるのは、今井先生と過ごした時間への思い、そして今井先生の作品を愛する人たちへの、菊池さんのあたたかな気持ちです。
10年前に始まった二人のご縁は、一冊のカレンダーとなって、これからも誰かの日常のそばで、時を刻んでいきます。
イラストをぬいぐるみに。ぬいぐるみ作家 MIDOさん

会場を彩っていたのが、「チヌたん」をはじめとするキャラクターのぬいぐるみです。
制作しているのは、ぬいぐみ作家のMIDOさん。
今井先生との出会いは2019年、海上自衛隊東京音楽隊のコンサートでした。
以前から今井先生のファンだったMIDOさん。バッグに先生がデザインしたアクリルキーホルダーをたくさん付けていたところ、声をかけてもらったことです。
その年のクリスマスに今井先生が欲しがっていたキャラクターを手作りしてプレゼントしました。今井先生はとても喜び、
「これを商品化したいから、このモデルを作っていただけませんか?」と依頼されたことがぬいぐるみ作りのきっかけです。「MIDO」という活動名も、今井先生がつけてくれた名前です。

今井ミリ先生がデザインした、愛らしいぬいぐるみたち。その表情をじっと見つめていると、あることに気づきます。
「目元や表情が、今井ミリ先生ご本人にとてもよく似ている」のです。
今井先生は、周囲の人たちから「ほんわりとした、可愛らしい雰囲気の優しい先生」として慕われていました。
「やっぱり、描くキャラクターには本人の面影が出るよね」
「全体のほんわりとした優しい雰囲気がそっくり」
ぬいぐるみを前に、そんな声が聞かれました。
今井先生が優しい人柄を込めて描いたイラスト。そして、その世界観を誰よりも大切にしながら、一針一針、愛情を込めて立体にしてきたMIDOさん。
二人の思いが重なったからこそ、完成したぬいぐるみには、今井先生の温かな面影や空気感が自然と宿っているのかもしれません。
自衛官が見て、ニコッとしてくれたら

制作には、丈夫な布地を使うこともあります。針を通すのが難しいときには、ペンチを片手に、一針ずつ縫い進めます。
そんな地道な作業を続けるMIDOさんの原動力になっているのは、ぬいぐるみを手にする自衛官への思いです。
「私の一番の思いは、自衛官の方がこれを見て、ニコッとしてくださること。その姿を見ると私自身も幸せな気持ちになります」
厳しい訓練や任務にあたる自衛官たちが、ふとぬいぐるみに目を向け、緊張を解いて表情を和らげる――。
そんな光景を思い浮かべながら、MIDOさんは今日も針を進めます。

「これからも、ミリ先生デザインのぬいぐるみを作り続けたいと思っています」
今井先生が亡くなった後、MIDOさんは先生のご家族から、今後もぬいぐるみの制作を続けることについて了承を得ました。
今井先生が描いた、優しく愛らしいキャラクターたち。
そこに込められた世界観や温かな人柄は、MIDOさんの手によって一体一体、立体となって受け継がれていきます。
そして、そのぬいぐるみを目にした誰かが、ふっと表情を緩める。
今井先生が生み出した優しい世界は、これからもそんな小さな笑顔とともに広がっていきます。
今井先生とファンをつなぐ機会に

「今井先生のたくさんのファンの方がいらっしゃるのは分かっていました。その方たちを、先生と繋ぐ最後の機会にしたいという思いがありました」
そう話すのは、「今井ミリ先生を偲ぶ会」を主催する、ジェイストアーズ主宰 纐纈一幸さんです。
これまで今井先生のキャラクターグッズを扱ってきた纐纈さんは、突然の訃報を受け、ファンが先生とお別れできる場所をつくりたいと考えました。
「自分は裏方に徹する側です。だから、あまりコメントも表立ってはしない。皆さんに先生の温かさを感じ取っていただければ。自分は役でもなんでもないですから」

その言葉通り、会場の中心にあったのは、今井先生が残した作品とキャラクター、そして先生を慕うファンたちでした。
各地から訪れた来場者は、並べられたイラストやグッズをじっくりと眺め、ときには思い出を語り合います。
「皆さんが最後はニコニコしながら階段を降りていかれる。そうなってほしいと思っていましたし、本当に思った通りの温かい会になりました」

「悲しみだけを抱えて帰る場所にはしたくない。」
今井先生が生み出したキャラクターたちに囲まれ、思い出を語り、最後は笑顔で階段を降りていく。
今井先生とファンを繋いだ偲ぶ会は、纐纈さんが願った通り、優しく温かな時間に包まれていました。
開催は9/23まで 最終日にはチャリティーオークションを開催


「今井ミリ先生を偲ぶ会」は2026年9月23日まで。
最終日には、チャリティーオークションを行います。チャリティ売上の全額をパープルリボン運動【膵臓がん撲滅支援】先、特定非営利活動法人パンキャンジャパン膵臓がん撲滅基金に寄付されます。
23日の詳細等については、後日、ジェイストアーズ公式X にてお知らせします。

艦マニア横須賀1階では「手乗りチヌたん」(2,200円)をはじめ、今井先生が手がけたキャラクターのグッズを販売しています。

「ふんわりじえいたいカレンダー2027」(1,900円)、そして菊池雅之さんが撮影した写真を収めた、自衛隊「海」卓上カレンダー(1,900円)も販売中。
今井先生を偲び、先生が残したキャラクターたちに会いに、ぜひ横須賀・ドブ板通りへ足を運んでみてください。

「今井ミリ先生を偲ぶ会」
会期:2026年8月29日(土)〜9月23日(祝)
平日12:00〜18:00、土日祝10:00〜18:00
(水曜定休日)
会場:艦マニア 横須賀2階
(横須賀市本町2丁目 19番地)
取材日 2026/8/30



