日本の海を守る海上自衛隊では、潜水艦救難艦が遭難した乗員の命を救う「最後の砦」として活躍しています。その重要な任務を支えているのが、水深数百メートルという極限の深海で活動する飽和潜水員です。こうした過酷な任務の現場では、女性隊員も力を発揮しています。2025年2月、難関の飽和潜水課程を修了し最前線で活躍する女性飽和潜水員に話を伺いました。
「命の砦」潜水艦救難艦

海上自衛隊の潜水艦救難艦は、海中で遭難し浮上不能となった潜水艦の乗員を救助することを主任務とする、まさに「命の砦」となる艦艇です。その最大の役割は、深海救難艇(DSRV)や高度な飽和潜水装置を駆使し、水中の遭難者救出活動を行うことにあります。さらに、大規模災害時には医療支援や被災者収容といった多目的機能も備えており、その任務は多岐にわたります。潜水艦救難艦における潜水員は、遭難した潜水艦の乗員を救助するための特殊かつ高度な水中作業を担う、極めて重要な存在です。
最も過酷な深海救難作業:飽和潜水
潜水員が担う最重要任務の一つが飽和潜水による深海救難作業です。保有する深海潜水装置を用い、水深数百メートルという高圧環境下で活動します。これは、DSRVによる救助が困難な状況や、ハッチ接続を妨げる障害物を除去するなど、人の手による精密な作業が必要な「最後の手段」として行われます。飽和潜水員は、この最も過酷な深海での人命救助を可能にするための特殊訓練を受けています。また、DSRVが活動する際の水中での安全確保や、DSRVの運用・回収作業の支援も、潜水員の重要な役割です。
女性潜水員にインタビュー

2025年2月に飽和潜水課程を修了し、潜水員となり、潜水艦救難艦「ちよだ」で任務にあたる女性潜水員に、その任務の厳しさとやりがいを伺いました。
彼女が海上自衛隊の仕事に興味を持ったのは、学生時代からダイビングに親しんでいたことがきっかけでした。
採用担当者に案内されて見学に訪れたその日、彼女の胸には強く確かな思いが芽生えます。「やりたい!」その直感が、志望の原点でした。さらに、すでに女性潜水員の採用実績があることを知ったことも、彼女の背中を押しました。
「頑張れば、自分にもできるかもしれない」その希望と確信が、挑戦への第一歩となったのです。
飽和潜水訓練(水深60m)の経験
飽和潜水訓練では、減圧室という狭い空間で生活を行います。任務でもっとも大変だと語るのは、飽和潜水による深海救難作業です。これに対応するために、極めて特殊で危険な環境下で行われる飽和潜水訓練(水深60m)を経験しました。
飽和潜水訓練とは
深海の高圧環境に体を慣らし、安全に長時間作業を可能にする特殊潜水技術の訓練のこと。
体力面での厳しさ
訓練は「思っていた以上にきつかった」と振り返ります。潜水時の呼吸環境の違いから、一度息が上がってしまうと回復に時間がかかるため、作業中は「ずっと疲れている」状態だったそうです。しかし、水深60mの訓練期間は1週間で、「あっという間に終わった」と感じるほど、集中した日々だったといいます。
高圧環境下の生活
飽和潜水訓練では、減圧室という狭い空間で約1週間、一度入ると減圧のための時間が必要なため、すぐには出ることができない生活を送ります。この施設内では男性隊員と寝食を共にします。トイレやシャワーなど、他の隊員たちが「皆さんが、うまく対応してくださった」おかげで、思っていたよりも気を使わずに済んだそうです。
飽和潜水下の生活と食事

定期的に食事が提供されます。高圧条件下では食べ物の味が変わりやすいという現象が知られていますが、この時は食感の違いは正直感じられなかったとのこと。それでも、生物(なまもの)は食べられないため、訓練が終わったら「お刺身やお寿司を食べたい」と強く思ったと話してくれました。
女性も活躍できるキャリア環境

海上自衛隊では、男女平等や女性が活躍できる環境を作ろうという動きが活発です。そのため、「特別不利だと感じたことはあまりない。公務員であるため、男女間で待遇などに違いはなく、育児休暇などの福利厚生もかなり充実しているため、女性にとって働きやすい環境です」と話します。
今後の目標として「実海面で訓練できるように」と笑顔で話します。
潜水服や装備は総重量が約70から80キロにもなるため、日頃からバーベルやダンベルを使った筋力トレーニングやランニングなどで、体力作りに励んでいます。
インタビューでは、彼女の明るく溌剌とした笑顔が印象的でした。
飽和潜水訓練でのエピソードからは、隊員との温かい連携と仲間の絆が、極限の環境を乗り越える力になっていることが伝わってきました。装備70~80キロを身に着け、過酷な任務にもかかわらず、果敢に挑戦する姿に心を打たれます。最前線で活躍する彼女の挑戦は、勇気と感動を与えてくれます。今後の目標である「実海面での訓練」の達成を心から応援しています。昨年、訓練生として女性が2名参加しており、今後も女性隊員のさらなる活躍が期待されています。
海上自衛隊の隊員として活躍したい方は、公式HPをご覧ください。



