潮風が吹き抜ける横須賀・三笠公園。 初夏の青空の下、巨大な戦艦の甲板に、勢いよく水が放たれました。
次の瞬間——
「いきます!」 「せーの!」
力強い掛け声とともに、一斉に動き出すデッキブラシ。
木甲板を擦る“ゴッ、ゴッ、ゴッ”という重厚な音が、100年の歴史を持つ艦内に響き渡ります。まるで映画のワンシーンのような光景。
令和8年5月17日(日)、世界三大記念艦「三笠」で行われたのは、海上自衛隊「横須賀准曹会」による清掃ボランティアです
保存100周年を迎えた「三笠」

横須賀市・三笠公園に保存されている、世界三大記念艦「三笠」。
現在の場所に保存されたのは、1926年(大正15年)11月のことです。今年、保存100周年という大きな節目を迎えました。日露戦争、日本海海戦と日本の近代史を語る上で欠かせない存在である「三笠」は、今もなお、多くの人々の手によって守られています。
この日集まったのは、海上自衛隊「横須賀准曹会 」( 以下、准曹会)の隊員とその家族、総勢91名です。隊員たちが次々と集まり始める朝の三笠公園には、熱気と活気に満ちた空気が流れていました。
希望者殺到!清掃ボランティア

清掃ボランティアの活動は毎年行われています。
昨年は200名を超える希望者が集まり、清掃道具が足りなくなるほどの大盛況だったそうです。今年は安全面や作業効率を考慮し、あえて人数を制限しました。 それでも現役隊員から多くの志願があり、参加を希望していたOBの方々を断らざるを得なかったといいます。それほどまでに、多くの人が「三笠」に特別な思いを抱き、この日を心待ちにしていたのです。
屋外展示されている「三笠」は、潮風や雨風にさらされ、塗装の剥がれやサビ汚れも発生しやすくなっています。特に今回の作業は、毎年5月27日に開催される「日本海海戦記念式典」に向けた、大切な準備でもあります。
“本格的”!清掃の流れはまるで作戦行動
実はこの清掃、艦艇で受け継がれてきた“海自の技術”が詰まっています。
① 大量の水を一気に流し込む
② デッキブラシで擦り、汚れを浮かせる
③ 水切りワイパー(ブルーム)で水と汚れを一気に流す
④ 太陽と風で乾燥

「放水開始!」
ホースから大量の水を一気に木甲板へ吹きかけます。洗剤は一切使用しません。

そこへ間髪入れず、隊員たちがデッキブラシを手に、一斉に甲板へ。

ゴシゴシゴシ!
大砲の足元や艦橋周辺、水切りが入りにくい細かな隅々まで。

木を擦る音が艦内に反響し、まるで巨大な艦そのものが目を覚ましたかのよう。 強い日差しを浴びながらも、誰一人として手を止めません。それぞれ役割を分担しながら、広大な艦上を一気に磨き上げていきます。
「これは基本です」 艦長が見せた“プロの動き”

「これは幹部候補生学校の頃からずっと教わってきた基本です」
そう教えてくださったのは、現場で鮮やかな手際を見せていた某護衛艦の艦長。
水切りワイパーを強く押し付けながら、濁った水を一直線に押し流していきます。 細かな隅では、ワイパーを強く押し当てながら丁寧に水を掻き出す姿もありました。
しっかりと腰を入れて全身でワイパーを操る、その動きは驚くほど滑らかで、無駄がありません。

昔ながらの木の甲板は、定期的に水分を含ませながら手入れをして汚れを落とさなければ乾燥し、腐食がどんどん進んでしまうそうです。この作業は、単なる“掃除”ではなく、100年の歴史を未来へ残すための、重要な「整備」なのです。

太陽の光を浴びた甲板がみるみる乾いていきます。その鮮やかな作業ぶりは、まさに長年培われた“プロの技”そのものでした。

作業後には、中に残った水を完全に抜くために、重いホースを高く持ち上げていきます。現場さながらの連携プレーを見たようで、大興奮の筆者でした。
次世代の姿に感じた“継承”

さらに印象的だったのが、横須賀教育隊から参加していた若い隊員たちの存在です。
初々しさの残る表情ながら、先輩たちの動きを真剣な眼差しで追い、一生懸命にブラシを動かしていました。
先輩から後輩へーー技術だけではない、“艦と歴史を大切にする心”が受け継がれているということを感じた瞬間でした。

参加した子どもたちも一生懸命に甲板を清掃する姿も見られました。笑い声と潮風、キラキラと光る濡れた甲板。そこには、“守る仕事”の優しさもありました。
歴史を、次の時代へ

清掃終了後、見違えるように綺麗になった「三笠」の甲板で参加者全員で記念撮影が行われました。
「非常に綺麗になりました。三笠も海上自衛隊の船ですから、ぜひそういう気持ちで整備しに来ていただきたい」
公益財団法人三笠保存会 事務局からは、感謝の言葉と「Z旗」の缶バッジもプレゼントされました。
隊員たちの力強いブラシの音。
家族たちの笑顔。
若い隊員たちの真剣な眼差し。
この日、三笠の甲板には、“歴史を守る誇り”が息づいていました。隊員たちの手によって丹念に磨き上げられたその姿は、これからも多くの来場者を力強く迎えてくれることでしょう。
世代を超えて受け継がれる「横須賀准曹会」の絆

今回の清掃ボランティアを中心となって企画・運営した「横須賀准曹会」。この日、横須賀教育隊の若い隊員たちが一生懸命に汗を流していた背景には、ベテラン隊員たちが若手へ背中を見せ、海自の伝統や技術、そして精神を伝えていくという温かい絆がありました。

先輩から後輩へ、次世代へと確実に想いが受け継がれていく“人としての繋がり”を育む場でもあります。この会が紡ぐ「世代を超えた強固な絆」が、初夏の青空の下で輝いていました。
「横須賀准曹会」とは
神奈川県横須賀市に拠点を置く海上自衛隊の現役・上級海曹(准海尉、海曹長、1等海曹)によって構成されています。隊員支援や後進の育成を目的に対し、賛成し入会する任意団体です。
令和8年4月9日に横須賀上級海曹会は総会を実施し、名称を『横須賀准曹会』と変更しました。
【主な活動】
地域貢献・ボランティア: 記念艦「三笠」 や、市内の馬門山海軍墓地における清掃や環境美化
隊員間の交流:英会話サークルの開催、その他、各種団体との連携
【イベント】
日本海海戦121周年記念式典・記念艦「三笠」保存100周年記念講演
海上自衛隊横須賀音楽隊演奏会
令和8年5月27日(水)12:00~17:00(式典当日は観覧無料)



